浦田秀次郎「直接投資―日本の投資と開発途上国の発展」


(開発技術学会会長、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授)

 

黒崎 卓・大塚 啓二郎 編著

 

『これからの日本の国際協力―ビッグ・ドナーからスマート・ドナーへ』

 

日本評論社、2015年 本体 2,700円

 本書は、日本の政府開発援助(ODA)が縮小し、国際社会における経済開発・貧困削減を議論する場での日本のプレゼンスが低下すると共に、大学生をはじめ多くの日本の人々の途上国への関心が低下する状況において、日本経済の将来は、国際社会との関係なしには考えられないことを再認識し、日本の国際協力の方向性を考えることが重要であるという危機感を持った黒崎卓一橋大学教授と大塚啓二郎政策研究大学院大学教授によって編集された。

 本書は序章、終章の他に11章から構成されており、日本の国際協力について歴史的な経緯や途上国への影響など、様々な観点から分析されている。

 筆者は「直接投資―日本の投資と開発途上国の発展」(第8章)を執筆した。

 同論文では、日本企業による直接投資について、アジアへの直接投資に焦点を当て、近年における拡大の実態、その要因、日本の直接投資によるアジア諸国の経済発展・成長への貢献などについて分析が行われている。

 分析からは、日本企業による直接投資が東アジアを中心とした地域生産ネットワーク(サプライチェーン)を構築したこと、経済発展に重要な役割を担う技術や経営ノウハウを投資受入国へ移転したこと、などを通じてアジア諸国の経済発展・成長に大きく貢献したことが実証的に示されている。

 日本企業による直接投資が将来においても、このようなメカニズムを通してアジア諸国の経済成長に貢献するには、日本企業の持つ技術や経営ノウハウを理解し活用できるような人材を投資受入国側で育成することや、日本企業や日本政府が技術や経営ノウハウの移転を効率的に行えるような日本人技術者や経営者を育成することが重要であると結論付けている。



 「共用品という思想-デザインの標準化をめざして」


後藤 芳一(開発技術学会理事、東京大学教授)、星川 安之 著

 

岩波書店 本体 2,415円

シャンプー容器のギザギザなど、より多くの人により使いやすい、日本発の共用品 (バリアフリー)のアイデア。それを支えるのが日本企業のモノ作り力。共用品の市場は3兆円を超え、 国際標準化でも世界をリードしています。



「途上国における日本人長期政策アドバイザー体験記」


研究代表者 橋本日出男

 

国際高等研究所 定価 2,200円

長期政策アドバイザー(ガーナ財務省顧問、モンゴル大蔵省顧問、キルギス大統領顧問、ポーランド経済省顧問など)として、アフリカ、東欧、中央アジア、アジア、中南米など様々な発展途上国で活動した10人が参加し、4年にわたる研究成果の一部を報告書としてまとめました。10人の貴重な体験記をまとめたものです。これだけ多くの海外派遣専門家の事例を、記述項目をある程度共通化し、記録した資料は意外と見当たらず、その意味では資料価値も高いものと思っています。

この研究会では、当初、明治の「お雇い外国人」を比較対象にし、我々を現在版お雇い外国人と位置づけ、その仕事ぶりを考えようとしました。しかし、日本政府により高給で雇われ、厳しく成果が問われた「お雇い外国人」と、経済協力という仕組みの元で、費用は派遣側が持ち、相手国からは特別に何をやって欲しいという明確な要望がない中派遣される我々との違いは明らかでした。相手に自分の存在を認めさせ、組織に受け入れられて後は、自分でやるべき仕事を見つけ相手国に寄与することに努める我々の悩みは大きいといわざるを得ません。考えてみれば我々は、不思議な役割を担なわされた、「押しかけ」、「御用聞き」外国人であったのではないかと思い始めています。

また、政策助言ということから必然的に政権との関係を深めざるをえず、政変や政府内部の人事のごたごたなどに影響され、また風土病などへの対応、帰国後の生活や家族のことなどを考えながら、相手国の為に自分の人生の一部を費やす中には、いろいろの人間ドラマがあります。それなりに面白い読み物ともなっています。現在年間に何百人も日本人の専門家が派遣されている中で、一握りのケースに過ぎないということはありますが、それでもある種の普遍性を持つ体験記になっていると思っています。多くの人に読んでもらい、現在の専門家派遣という経済協力事業の意味を考えるきっかけを提供できればと思っています。               

 

(文責: メンバーの1人 和田正武)

 

ご関心のある方は以下にアクセスください。

http://www.copymart.co.jp/H0603/


「環境経営のルーツを求めて」


「環境マネジメントシステム」という考え方の意義と将来

 

倉田健児 著(北海道大学教授)

 

産業環境管理協会 本体 3,800円

環境マネジメントシステムとはどのような考え方なのだろうか。この考え方はどのようにして生まれ、発展し、そして今に至っているのか。この考え方が社会に普及することは、その社会に対してどのような意義を持つのか。このような問いに答えようとの試みが、本書の内容だ。

 

本書は4部構成となっている。第Ⅰ部は環境マネジメントシステムを起点とした問題提起だ。第Ⅱ部と第Ⅲ部は本書の中心ともいえる部分である。環境マネジメントシステムという考え方はどのようにして生まれ、発展し、そして今に至っているのか、この点を詳細に論じている。さらに第Ⅳ部では、環境マネジメントシステムという考え方の普及が、社会に対してどのような影響をもたらすのかを論じている。環境という視点から技術の社会での使用という視点へと、論点の普遍化を図ることで、この問いに対する答えを示そうとしたものだ。このために第Ⅳ部では、議論の対象も環境から広く技術一般へと拡大している。

 

本書の中では、もちろんISO14001が登場する。その策定過程にも詳しく触れる。しかし、ISO14001の制度としての内容やその認証の取得のための方法などを紹介することはない。世に多く出版されているIS014001の解説書とは、その性格が全く異なっている。

 

環境経営や環境マネジメントシステムに日々携わりながらも、制度の背景にある考え方にまで遡ってその理解を深めたいと考えている者にとって、必読の書といえるだろう。



「バングラデシュ農村開発実践研究-新しい協力関係を求めて-」


海田能宏 編著(京都大学名誉教授) 

 

コモンズ 本体 4,200円

外来の技術ではなく在地の知恵としての人材を使った農村開発を求めて十数年に渡って定点観測・調査した共同研究の集大成

 

第一部 農村開発とリンクモデル〈 海田能宏 〉

第二部 リンクモデルの構成要素

 第1章 マタボールたちと在地の農村開発〈 安藤和雄/内田晴夫 〉

 第2章 ベンガル・デルタの村落形成についての覚え書〈 河合明宣/安藤和雄 〉

 第3章 オストドナ村農村開発顛末記〈 矢嶋吉司/河合明宣 〉

 第4章 農村開発におけるマイクロ・クレジットと小規模インフラ整備〈 藤田幸一 〉

 第5章 将来計画へのプロポーザル〈 海田能宏 〉

第三部 農村開発における「技術」

 第1章 農村水文学〈 内田晴夫/安東和雄 〉

 第2章 バリ・ビティをとおして見た農村開発〈 吉野馨子 〉

 第3章 風土の工学〈 海田能宏 〉

第四部 農村研究

 第1章 コミラ農村の農地流動・労働力・小農経済〈 宇佐見晃一 〉

 第2章 村と町のインターアクション〈 海田能宏/ケシャブ・ラル・マハラジャン 〉

 第3章 就業機会の変容にみるバングラデシュの農村-都市関係〈 向井史郎 〉

 第4章 バングラデシュ村落社会と村落研究〈 野間晴雄 〉

 


「経済発展と技術軌道―台湾経済の進化過程とイノベーション」


宮城和宏 著(北九州市立大学助教授) 

 

創成社 本体 2,600円

「アジアの奇跡」を説明する理論は大別して、物理的・人的な投資の役割を強調する「蓄積理論」と企業家精神、学習、イノベーションの役割を強調する「同化・吸収理論」に分類することができる。前者は新古典派経済学に代表され、後者は進化経済学的なアプローチとして知られている。

本書は、「同化・吸収理論」のアプローチに依拠して台湾をケースに後発国の経済発展過程と歴史経路依存的な技術軌道の確立過程を理論的・実証的に分析している。台湾経済はかつての労働集約的な産業構造から今日、資本集約的・技術集約的な産業構造へと着実な変化を遂げてきた。その背景には、先進国企業からの直接投資やOEM/ODM(受託生産)を通じた技術導入から拡散に至るプロセス、新竹科学工業園区を中心に形成されてきた産業クラスターとシリコンバレーとの間の「頭脳循環」等が重要な役割を果たしてきた。しかし、一方で近年の中国への直接投資の急増は日本同様あるいはそれ以上に台湾経済空洞化の懸念をもたらしている。本書では、経済発展過程における(1)学習を伴う外国技術の同化・吸収過程、(2)イノベーションへの技術努力(R&D)、(3)技術の同化・吸収過程における政府の役割、(4)発展過程を通じて歴史経路依存的にロック・インされてきた技術軌道が更なる発展にもたらす問題点等について日本、アメリカ、中国との関係をも踏まえたうえで理論的・実証的な観点から考察している。本書は台湾と中国経済との関係や他のアジアNIEs、ASEAN等の技術政策に関心のある人にも参考になるであろう。なお、本書は著者の博士論文を加筆修正したものである。


「黄金律と技術の倫理」


新宮秀夫 著(開発技術学会理事、京都大学名誉教授)

 

開発技術学会叢書 定価 2,400円 会員価格 2,000円

 

21世紀を迎え、我々の直面する課題の一つに技術者の倫理観の必要性が認識され、様々な局面から議論されているところであります。今回、開発技術学会理事の新宮秀夫京都大学名誉教授が本テーマに工学的視点から黄金律としての整理軸で、内外の歴史的文献を整理、分析されました。ここに各方面の方々にご提供したいと考え、開発技術学会の叢書として出版いたしました。

本書が多くの方々のご参考になればと存じ、推薦するものであります。

開発技術学会 会長 鳥居泰彦 

(定価 2,400円 会員価格 2,000円)



「海外勤務成功の秘訣」


外国人と働くツボ

 

伊藤 久著 

 

日本貿易振興会 本体 1,800円

国際は上司になるための秘訣が満載。海外での豊富な会社経営の現場実体験を通して「外国人と働くツボ」を語る。


「ASEANの技術開発戦略」


シンガポール/マレーシア/タイ/インドネシア/フィリビン

 

三上 喜貴 編署

 

日本貿易振興会 本体 3,500円

 

ASEANが再び「世界の成長センター」としての活気を取り戻すのはいつか?この問いに答えるのは難しい。しかし成長するASEANの復活にとって、自立的な技術開発能力とそれを支える人材の蓄積が不可欠の要件であることに問違いはなかろう。

 本書は、ASEAN主要5カ国の科学技術の現状を、(1)その歴史的位置づけ、(2)研究開発に投入されている資金と人材(3)関連する行政機構と国立研究所、(4)大学の研究活動、(5)産業界の才支術開発活動と政府の支援策、の各側面から紹介・分析している。豊富な統計データと個別具体的な事例や研究所の紹介により、マクロとミクロの両面からこれを把握することに成功している。評者の知る限り、ASEAN諸国の科学技術について書かれた初の体系的解説書と言える。本書はまた各国と日本との間の技術協力関係についても随所で触れている。今後地球環境問題を始め日本がこれらの諸国との間で取り組まなければならない技術協力課題は多い。また日本の産業界にとってもこの地域に張り巡らされた産業ネットワークを如何にして再構築していくかが重要な課題となっている。本書はこうした技術協力や産業協力に関わる関係者にとっても便利な参考書となろう。機関名や制度名等の煩わしい略記号の索引が充実しており、科学技術関連の各国WEBサイト情報、JICAや工業技術院のASEAN関連プロジェクトの一覧表、各国科学技術年表などが付されており、実務家にとって便利なハンドブックとなっている。なお、編者を含む6人の執筆者は98年夏までASEAN地域のジェトロセンターに勤務していたメンバーである。


「エントロピーアセスメント入門」


足立 芳寛 編著

 

オーム(社)刊 本体 4,500円

 

 20世紀も数百日を残すのみとなった。来るべき21世紀は、どの様な時代となるのだろうか。確実に言える事の1つは、来世紀中には地球上の人口が100億人を突破することである。

 現在は60億人であるから、これから必要な資源・エネルギーは、2倍の量が必要という事になる。途上国は、更なる経済成長を目ざす訳であるから、3倍、4倍以上の量になるかもしれない。この莫大な資源・エネルギーの消費を人類の叡知は解決できるのであろうか。1990年代に訪ずれた東西対立の解消は、20世紀の最終章で人類は「市場経済」というルールを選択した様である。アダム,スミスの唱える「神のみえざる手」が、最も効率的で合理的な「解(soludon)」を市場(mafket)を通じて導いてくれるという訳である。人口の爆発、経済成長による資源・エネルギー需要の増大は、価格の高騰というプライスメカニズムによって供給とバランスが自然に保たれる訳である。では、mafketfanufeと呼ばれる市場の欠陥を少し手直ししてやれば、「神のみえざる手」により万事メデタシと言う訳であろうか。需要と供給のバランスが合理的に決走されれば、人類は来世紀も繁栄を享受出来るであろうか。

 我々が感じるのは、先行きの不安感ではないだろうか。では、神(自然)は、どのようなルールでこれまで地球というシステムを運営して来たのだろうか。それは、ダーウィンの言う「進化の法則」もその1つであろう。「進化論」は、最も自然(外的環境)に適合したものが、選択される事で、多様な形態という選択肢の中で、神はもう1つの手で、進化という仕事を行っているとも言えよう。ここで植物や生物のシステムをエネルギー効率の観点から見てみると、我々の技術の及びもつかない秀れたシステムが構築されている事に驚かされよう。例えば、人類が手にしている太陽光利用の発電システムなどは、植物の有する光合成システムとは比べ様もない程椎拙なものであると言えよう。神(自然)の選択されたシステムは、リサイクル性があり、適応範囲の広いまことに柔軟なシステムと言えよう。この場合、神が追求された目標は何であろうか。それは、エントロピー・ミニマムなシステムではなかろうか。地球が保有する広い意味での資源を「宇宙の熱的死、最後の審判の時まで最も有効に長く利用するシステム」が、進化という「神のもう1つの見えざる手」によって、日々改良されているのである。その場合の改良は、エントロピー.ミ・ニマムを目ざして作業は進められているのである。

 我々は、「神の見えざる手」によって効率の追求というプログラムは導入しているが、更に包括的な「エントロピー.ミニマム」という目標の設走が、来世紀の人類繁栄のためのキィーファィターではなかろうか。人類の叡知である技術開発において、新たなパラダイムとして、この「エントロピーの消費・ミニマム」が導入されることが必要と考えられる。では、「エントロビーの消費・ミニマム」とは、何をもって測定、決定するのか。ここで言う、エントロビーミニマムとは熱力学的概念から拡張され、トータルとして、エネルギー.資源が有効に利用される事を意味する指標と定義付けられよう。

 現在、開発が進められているライフサイクルアセスメント(LCA)等の評価手法は、これらのトータルとしての有効利用度を計量化しようと言うもので、ある場合は、リサイクルするよりも廃棄する事が有利な選択もあり得るし、地球系外のエントロピー利用という事でも、無限と考えられる太陽系の利用もその利用に地球資源がその期待効用以上に必要という事もあり得るという事を検証しておくべきであろう。この手法について、開発技術学会内のグループで一昨年来、研究、討議が重ねられ、まず間題提起的にまとめられたのが本書である。本書は、今後とも研究が続けられるこれら領域の発展の第一歩を示したものとして期待される。

TOPページ|